人間は幸福になるために生きています。

幸福に生きるためには、「からだが健康であること」「こころが健康であること」「家族が健康であること」など、いくつかの条件が必要ですが、“健康”が幸福のキ-ワ-ドであることは間違いありません。

 歯科医院として、「口の健康」が幸福の条件であることを主張したいと思います。

口は食べ物の入り口であると同時に思考の出口なので、社会と個人を中継する役割を担うからです。

 では、どのような生き方をした時、病気になってしまうのでしょうか?それがわからなかった時代は、ムシ歯になるならない、歯周病になるならない、歯が抜ける抜けないはその人の“運がいいかわるいか”という運命論になっていました。口に限らず、これまでの人々の健康観は、まじないや運任せだったのです。

 ところが、病気の成り立ちが解明された現在では、病気になるかならないか、どんな生き方がからだを壊してしまうのかについては、各人の知識と意思に依存していることがわかりました。

 口の病気の成り立ちやその発症防止法も同じです。歯を残す方法論がわかったので、80歳まで20本以上の歯を保持しましょうという「8020(はちまるにいまる)運動」が始まりました。歯の病気の多くは、歯面のバイオフィルム(細菌の塊)が原因です。歯を残す方法をひと言でいえば、個人の努力によるホ-ムケアとかかりつけ歯科医の努力によるプロフェッショナルケアの組み合わせで、このバイオフィルムをなくすことです。これを実行すれば、8020運動を達成できるのです。

 歯科医師は、8020運動を通して病気全般にかかわる2つの知識を患者さんや住民に伝えることができます。

つは「感染症」です。

ムシ歯も歯周病も、体液(唾液)を介する病原細菌の感染症です。その感染源、感染経路も解明されています。体液を介する人から人への感染がからだを壊すことを、ムシ歯を題材にして子どものときから学ぶことができます。

 つめは、「生活習慣病」です。

ムシ歯になってしまうようなバランスの悪い食生活を続けると、大人になってから生活習慣病にもなりやすいのです。

 そして歯科医師は8020運動を通して新たに病気全般にかかわる、

つめの知識を住民に伝えることができるようになりました。それは歯の病気が他の病気との共通危険因子の一つであることです。急性疾患の原因は1つであることがしばしばですが、慢性疾患は多くの危険因子が重なって発症することが知らされています。

例えば動脈硬化は、動脈硬化の原因として1つだけの病原因子だけではなく、さほど重要ではない危険因子が積み重なって発症に至ると考えられるようになってきました。

 生活習慣病の予防では、たくさんの危険因子のうち除去可能な共通因子を病気になる前に取り除いておくことが大切です。特に「栄養」と「タバコ」が多くの慢性疾患の共通危険因子になっています。同様に歯の病気も「ガン」、「呼吸器系疾患」、「心臓血管疾患」、「肥満」、「糖尿病」、「アルツハイマ-型認知症」などの疾患の共通危険因子の1つであることが科学的に証明されるようになりました。

 歯周病や歯の喪失によって噛むことができなくなると、でんぷん性の消化しやすい炭水化物が多くなります。食物繊維、カルシュウムをはじめ、煮込むことでいくつかのビタミンも不足しがちになります。また、口腔細菌の毒性は思いのほか強く、血管内皮細胞や多くの細胞に持続的な損傷を与えて、多くの疾患の危険因子となっています。

 「からだの健康はお口から」です。

口の健康に気をつけて糖尿病などの生活習慣病の進行を防止して、幸福な人生を楽しみましょう。